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街語り 店語り

2022.08.20

 金子眼鏡店 丸の内仲通り店

 


金子眼鏡店 丸の内仲通り店
1998年、北海道・函館。2000年、アメリカ・ニューヨーク(以降 NY)のソーホー。そして2001年、東京・丸の内。いまや全国に直営店を展開する金子眼鏡店が、卸問屋専門からの脱却を目指して直営店事業をスタートさせた草創期における出店の順番である。見てわかる通り、福井県の企業がNYや東京に先駆けて函館に1号店を開いたことも異色だが、東京に出店するより先にNYへ進出していることは極めて異色である。今回スポットを当てるのは、直営店としては3番目にできた東京・丸の内店。『FACIAL INDEX NEW YORK 東京店』の名で開業し、2019年10月に現在の『金子眼鏡店 丸の内仲通り店』となったこの店は、3番目でありながら代表の金子真也が「本番の勝負に挑む場所」と位置付けていた東京での初めての店。まずはその「本番の勝負」に臨むことになった前年に誕生したNY店について、その経緯から振り返る。なぜ東京を飛び越えてNYが先だったのか。

1998年、直営1号店である函館店が誕生する少し前。この頃から金子眼鏡は世界各地の眼鏡展示会にブースを出展し、海外でのビジネス展開をスタートしていく。自社のオリジナルブランド『BLAZE』『SPIVVY』『泰八郎謹製』『恒眸作』に加え、デザイナーズブランド『WOLFGANG PROKSCH(ウォルフガングプロクシュ)』らのアイテムは、NYを筆頭にミラノ、パリなどのショップや目利きの人々の間でも評判を呼び、海外の高感度な有力眼鏡店との取引が増えていった。これで手応えをつかんだことに加え、1990年頃から親交を重ね、当時NYの眼鏡業界に身を置きながら展示会での金子のブースの運営をサポートしていた人物である濱口十至幸の存在もNY出店の後押しとなり、その後常識的には到底考えられないがいきなりNYにまず店を構えることになる。
その場所は、マンハッタン・ダウンタウン区に位置し、歴史的建造物が立ち並ぶファッションとアートカルチャーの最先端の地とされていたソーホー。元々は福井県鯖江の小さな眼鏡問屋が、自らのブランドを引っさげた直営店を東京さえも飛び越えてNYへ出す。それもソーホーに。この前代未聞の店舗展開は、眼鏡業界はおろかファッション業界でも大きな反響を呼んだ。そしてその決断は、いま改めて俯瞰して見ても先鋭的で尖っている。金子真也は当時のことをこう振り返る。
「特にNYという街をピンポイントで狙っていたわけではないんです。90年代後半に世界と勝負したいという思いから、世界中の主要都市の展示会に出展しましたが、NYの街は格別でした。どの街よりも多くの民族、人種の人々で溢れていて、まさに世界の中心だなと。自分たちのビジネスの力試しをするのはここしかない、という感じでした。もちろん海外との取引が増えていく中でも特にNYでの反応が良かったことや、濱口さんという人との出会いも大きかった。あの街に彼がいたことが、出店を後押ししたのです。なんせあの頃は僕も濱口さんも40歳そこそこで、常識を嫌いオリジナルな生き方を模索する、まさに怖いもの知らずでしたから(笑)」
こうして誕生した『FACIAL INDEX NEW YORK』。その直後、NYの余波がまだおさまらない中、新たな「出会い」をきっかけに東京初出店への道が拓かれようとしていた。
金子眼鏡店 丸の内仲通り店 店内 金子眼鏡店 丸の内仲通り店 ショーケース

出会いが好機を生み、未来を拓く。

NY店がオープンして半年が経った2000年の秋。東京こそが「本番の勝負に挑む場所」と考え、思案を重ねていた金子真也のもとに、丸の内への出店のきっかけが訪れた。皇居と東京駅の間に位置する丸の内。世界有数のビジネス街として名を馳せたイギリス・ロンドンの「ロンバード街」に匹敵するような街を作りたいという構想を抱いた三菱社がここを開発の地に選び、様々な発展を遂げ100年以上が経った。明治時代に現在の丸の内を含む大手町・有楽町のいわゆる「大丸有エリア」にあたる広大な土地を購入し開発を牽引してきた三菱地所は、1998年に「丸の内再構築」を宣言。大規模な再開発プロジェクトを立ち上げ、その中の目玉として、丸の内のシンボルである『丸ビル』を既存のオフィスビルからの脱却を図り、街にふさわしい店舗をテナントに招く新たな複合ビルへと建て替える計画を発表。2002年開業に向けて着々と準備が進む中、金子は三菱地所の丸ビル建替計画のリーシング担当と面談の機会を得て、新しい丸ビル内のテナントとしての出店の可能性を模索した。
「丸の内という場所はやはり特別ですよね。東京の中心であり、いわば日本の中心ですから。そこに自分たちの店舗を出すというのはとても大きなこと。本番の勝負に臨むのにふさわしい場所でした」しかし、その場所は天下の丸ビルである。テナントの出店候補としてリストアップされていた名だたるブランドに比べ、圧倒的に知名度が劣る金子眼鏡に入る隙間は、ほぼないに等しかった。その面談が行われるまでは。

大手町を見渡す三菱地所の本社ビルで行われた面談。そこで、会社やブランドの知名度こそないが金子眼鏡の先進性に大きな可能性を感じとった担当者から「丸ビルの中ではなく、丸の内のメインストリートの路面への出店はどうか」という思いがけない逆提案を受けた。そして彼はこう付け加えた。「NYの路面にあるような魅力的な店を、丸の内に新しい風が吹くような店をぜひ出してほしい」
このリーシング担当者との出会いはその後の金子眼鏡が飛躍する糸口をつくった重要な出来事となり、またしても金子は「出会い」を引き寄せて未来を切り拓いた。そして2001年9月、国内2号店であり東京初出店となる『FACIAL INDEX NEW YORK 東京店』が丸の内仲通りに開業。店づくりにおいて目指したのは、自分たちの感度を伝える空間そのもので伝える「眼鏡店の匂いがしない眼鏡店」。店内に足を踏み入れると、視界にメガネはなく囲炉裏のようなテーブルとソファーだけ。さらに高低差のあるスタイリッシュな店内は、来店者にまるで非日常空間に迷い込んだような独特の高揚感を生んだ。

「僕たちが提案する眼鏡は新しいアイウェアファッションの創造を目指した革新かつ高感度な「アイウェア」であること。そしてそれらが、鯖江の伝統的な眼鏡技術によって成り立っていること。革新と伝統の融合により作り出されたメガネを、自分たちの手でデザインされた最高の空間である『FACIAL INDEX NEW YORK 東京店』を通して多くの人々に伝えていくことで、社会に革命を起こしていきたかったのです」当時のそのコンセプトの根幹は、開業から20年以上を経て、『金子眼鏡店 丸の内仲通り店』と名称が変わり内装がリニューアルされたいまでも変わらない。「僕にとって、出店を決めるときは算盤を弾くことより、出会いときっかけから生まれる感覚の方が大事なんです。出会いがあるからチャンスが生まれるし、前に進める。NYも丸の内も、これはもう出店を決めたというより運命的に導かれたみたいな感覚ですね」(金子真也)。
金子眼鏡店 丸の内仲通り店
SHOP INFO

金子眼鏡店 丸の内仲通り店

東京都千代田区丸の内2-2-3  丸の内仲通りビル1F
TEL : 03-5288-8220
営業時間 : 11:00〜20:00


※参考資料/『オフィスジャパン』2013年 冬号
「連載・三菱地所と大丸有 丸の内120年の軌跡」
(CBRE 刊)