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History-5
店舗とは、伝える場所。

2021.04.20
FACIAL INDEX NEW YORK
零細な卸問屋としてスタートした金子眼鏡は、社長である金子真也の感性と先見性、そして覚悟により今日まで至りました。その過程において自社の強みとなるオリジナルブランドをつくり、職人との出会いによって新たな価値を創出し、「ものづくりの継承」という決意をいたしました。

一方、金子が1990年代後半以降から、ものづくりの現場(工場)と同様に重要視し情熱を注いできたものがあります。それは【店舗】という場所。

FACIAL INDEX SPECTACLES FACIAL INDEX NEW YORK東京店
1980年代から2000年代初頭まで続く歩みの中で、金子は自分たちの商品だけでユーザーと真正面から向き合うオリジナルショップを開設したいという想いにかられました。卸売業としては実現不可能な『SPIVVY』や『泰八郎謹製』などオリジナルブランドだけで埋め尽くされた空間の創造、そこに漂う空気感・世界観を体感して欲しいと、1998年に最初の自社店舗となる【FACIAL INDEX SPECTACLES 】を北海道・函館市にオープンしました。
先代である父は大手の眼鏡問屋が幅をきかせる都市部を避け、北関東、東北、そして北海道の眼鏡・時計の小売店を中心に営業をしました。その地盤を継いだ若き頃の金子にとって、北海道は最初に商売を学んだ地であり、函館はその玄関口。第二の故郷と思えるような親近感を持ち続けていました。そんな、地域を愛し、そして知り尽くしたこの地を1号店出店の街に選んだのです。

その後、1997年に『SPIVVY』をリリースして以来、常に海外のマーケットを意識していた金子は、2000年4月にNYソーホーに【FACIAL INDEX NEW YORK】を、そして2001年9月には東京・丸の内に【FACIAL INDEX NEW YORK 東京店】をオープン。コンセプチュアルでスタイリッシュな店舗は話題となり、その後も様々なブランド名で出店を続けていくことになります。

2006年、金子が小さな工場で自社によるものづくりに取り組みはじめた頃、店舗のあり方に対して心境の変化が訪れます。ユーザーに鯖江でのものづくりをもっと肌で感じていただきたい。さらにもっと自分たちの手で作り上げた製品を深く知っていただきたい。
そう思った金子は【BACKSTAGE】の建設が本格化する2年後の2008年、ものづくり文化とユーザーをつなぐ架け橋となる特別な空間として、そして産地・鯖江の対になる舞台として、歴史的建造物である大阪・芝川ビルに【THE STAGE】をオープンしました。

その後も金子は「自ら作り、自ら売る」という、自分たちの眼鏡がもつ価値を提供するためにふさわしい場の模索し、それは今日現在もなお続いています。
金子眼鏡店 羽田空港第3ターミナル店

「金子眼鏡」という看板を、店舗に冠する。

金子には駆け出しだった20代の頃、「金子眼鏡」という社名をめぐって両親と喧嘩をした苦い記憶があります。金子が家業を継ぐために帰郷して先代の父とともに働いていた頃、昔ながらの会社名を横文字またはカタカナに変えるのが主流となっており、またそれがオシャレで先進的というイメージが広がりつつありました。「金子眼鏡」(カネコガンキョウ)という旧態依然とした社名にネガティブな印象をぬぐいきれない金子と、社名を変えるつもりなど毛頭ない両親。このときばかりは対立を避けられませんでした。
しかし、この揉め事はやがて感謝の気持ちへと変わっていきました。きっかけは多くの職人たちと出会い、彼らの名前をそのままブランド名にしたときの経験です。
職人ブランドの展開を通し、黒子であった職人さんを知っていただくことでユーザーにその本質的価値を伝えることができました。自らの社名を冠した店舗という素の状態でユーザーと向き合うことこそ、自分たちの眼鏡に対する情熱を全て知っていただけるのではないか。

こうして2010年10月、初めて社名を冠した店舗『金子眼鏡店』を東京・羽田空港国際線ターミナル内にオープンします。そこは企画・デザイン・製造・販売という金子眼鏡の体内に流れる血流とDNAを直接感じられるという、理想の店舗を目指して誕生しました。このときから店舗のロゴには、会社の出自である創業年と地名を自分たちの存在証明として刻印。以後、この形がスタンダードとなっていきます。
その後も北海道から九州まで、金子眼鏡は全国各地に多くの販売店舗を設けました。また、こうした日本国内の取り組みは海外での評価を高め、2010年代後半以降は多くの訪日外国人が国内の店舗に足を運ぶようになります。さらにアジアだけでなく世界中の人々にも知ってほしいという思いから、2016年4月にはパリにも店舗を構えました。

【店舗】− そこには毎日大勢の人々との出会いがあります。そして、金子眼鏡にとっては自分たちの価値観や産地である鯖江への想い・ものづくりの考え方を伝え、同時に眼鏡選びの愉しみを互いが共有できる唯一の場所でもあります。店舗を増やすことは、ユーザーとの出会いを増やすこと。今日もまた日本のどこかで、世界のどこかで。誰かが金子眼鏡と出会い、その眼鏡とともにある新しい暮らしが始まっています。


写真
上/FACIAL INDEX NEW YORK
中/FACIAL INDEX SPECTACLES  中/FACIAL INDEX NEW YORK東京店
下/金子眼鏡店 羽田空港第3ターミナル店