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めがねのある暮らし

2022.10.20

櫻井義浩・富澤智晶さんご夫妻
靴職人



 


櫻井義浩・富澤智晶さんご夫妻
埼玉県越谷市赤山町。東武伊勢崎線・新越谷駅とJR武蔵野線・南越谷駅が交差するこのあたりは、都会的な風情と懐かしさを感じるまちの香りが同居する少し不思議なエリア。その一角に、『富士ショッピング』という古い佇まいのアーケード通りがある。通りの入口に掲げられた看板のすぐそばに、靴職人である櫻井義浩・富澤智晶の『entoan(エントアン)』の工房が見えてくる。
夫婦であるふたりとも、ここが地元。工房のすぐそばにある駄菓子屋は、櫻井さんが小さい頃によく通った場所だ。2009年に浅草の創業支援施設で小さな工房を構え、この勝手知ったるホームグラウンドに拠点を移したのが2012年9月。現在はこの場所から、革のスリッポン、レースアップブーツ、ルームシューズなど工房を代表する看板品が生み出され、バッグやポーチ、ウォレットなどの革小物にいたるまでつくっている。entoanの靴は、工房や受注展示会でサンプルを試着し、サイズや革の色などの仕様を選ぶセミオーダー形式。そこで受注を受けた靴は、ふたりと信頼できる仲間たちの工程を経ておよそ4ヶ月ほどで手元に届く。ちなみにブランド名であるentoanの「en」には人との「縁」、または「円」などの意味が込められている。その名が示す通り、人と直接触れ合う受注展示会を地道に積み重ねることによって着実に知名度を広げ、ふたりがつくる靴のファンはいまや全国にいる。
櫻井義浩さん 富澤智晶さん

改めて「靴が好き」と気づいたとき。

櫻井さんが靴職人を志すきっかけが訪れたのは、大学3年のとき。周囲が就活でざわつき始めたことで、初めて自分が卒業したあとの未来を想像したとき、導き出された結論は「就職することが目的で会社に入って、そこでずっと仕事をするのは本当に好きなことじゃないと自分には無理」そこで自分はなにがしたいのか、なにが好きなのかを改めて思い返したときに、ふと気がついたのが靴の存在だった。「小学生の時にサッカーをやってたんですけど、スパイクがあるじゃないですか。練習を終えて家に帰ると、夜に玄関に座ってスパイクを磨くんですけど、その時間がすごく好きだったんですよね。そのことを大人になってから思い出して、その後もスニーカーに夢中になったり、革靴を大事に履いたりした自分がいて。あぁ自分は靴が好きなんだなと。靴に囲まれる暮らしがしたいって思ったんです」
大学卒業後に当時、東京・浅草にあった製靴を学ぶ学校『エスペランサ靴学院』に入学。在学中から靴の修理屋でバイトをし、そのまま就職。やがて25歳のときに浅草の創業支援施設『浅草ものづくり工房』で独立を果たし、靴職人として本格的なスタートを切った。富澤さんと出会ったのは、櫻井さんが学院に在籍していた頃。櫻井さんの学校と、富澤さんが在籍していた東京・渋谷の『文化服装学院』で合同作品展を企画した時の事。偶然にも地元が一緒だったことですっかり意気投合し、その後付き合うことになり、結婚にいたった。一緒になって今年で8年、いまは2人の子どもを育てている。
entoan

職人の肌感覚でわかる素材の良さ。

そんなふたりにとって、眼鏡は仕事でも日常生活でも欠かせないアイテムだ。現在かけているのは、ともに『KANEKO OPTICAL(カネコオプティカル)』で購入した眼鏡。櫻井さんと眼鏡の付き合いが始まったのは、彼が中学2年のとき。人生最初の1本のことはよく覚えている。「ひし形っていうかな。ちょっと変わった眼鏡でした。中2の男子が普通選ばないような(笑)。ポール・スミスでしたね」ちなみにその眼鏡はいまも処分せずに持ち続けている。この眼鏡に限らず、昔に買ったもので今でも捨てられずに大事に持っているものには、何かしらのエピソードや思い入れがある。だから簡単に処分できないのだという。

中学から始まった眼鏡との付き合いが15年以上経過した2014年9月、金子眼鏡の眼鏡にたどり着いた。「存在はもちろん知ってたし、興味もあったんですけど、正直『高いな』って思ってて(笑)。なかなか手が出なかったんですが、地元の『レイクタウン』という大きいショッピングモールをブラブラしてたとき、その中にあるKANEKO OPTICALの前を通りかかったんで、買うつもりはなかったんですが入ったんですよね。その時、あるシンプルなデザインの眼鏡に目が止まって、見ているうちにすごく欲しくなっちゃって」櫻井さんがこのとき手にしたのは、細いメタルフレームでブリッジに鼻パッドもなく、すっきりと無駄のない形のヴィンテージシリーズ。「ここまで形がシンプルだと素材が大事になってくるんですが、手にとって見れば見るほど、触れば触るほど感触がよくて。ちょうどその頃、自分の結婚式の二次会の装いを探していた時期だったんで、迷わず買いましたね」
一方の富澤さんは、夫が金子眼鏡で眼鏡を購入した2年後の2016年に同じ店舗でお気に入りを見つけた。「わたしは夫と違って、眼鏡をかけ始めたのは23か24歳のとき。夫のおさがりの眼鏡をもらってレンズを交換して、ずっとそれをかけてたんです。で、しばらく時間が経ってそろそろ新しい眼鏡がほしいなって思ってたんですけど、わたし自身は全然『眼鏡顏』じゃないので、いろんな店で何を試着しても似合わなくて(笑)。でも、このとき金子さんで見つけたこの眼鏡がようやくしっくりきたので、すぐに買いました。不思議なんですよね。他のお店では見つからないんですけど、金子さんは結構しっくりくるものが多いんですよ」
ふたりとも革を扱う職人であり、素材の良し悪しは肌感覚で知っている。「革だったらわかるんですよ。手触りとか、表面の見た目、匂いとかで素材として使えるかどうか、またはどんな靴どんなバッグに合うかすぐわかる。眼鏡については、素材とか細かいことは当然わからない。でも『この素材はいい』って瞬時に思ったその自分の感覚を信じてるって感じですね。実際、これを選んで間違いなかったですし」(櫻井さん)
entoan 金子眼鏡

使い続けてこそ、完成。

職人がつくる革靴と、職人がつくる眼鏡。ともに製造工程が多く、そこに近道はない。長く使ってもらうために「わざわざ」の作業を繰り返し、遠回りかもしれないが時間をかけて丁寧につくる。そして、日々の手入れやメンテナンスを重ねれば、ずっと使い続けることができる。こうして考えると、両者には意外に共通項がある。
「ものができただけでは完成ではなく、それを人が日々使い続けて、ときには磨いたり、ときには修理したりしながら、人とものの関係性が築かれる。そこで初めて一つのものが完成する」これが櫻井義浩・富澤智晶夫妻の靴職人としての考え方であり、金子眼鏡が目指しているものづくりも同じ精神性をもっている。
長く大事に使って、いい関係を築いてほしい。言葉にできない思いを靴やバッグに込めて、ふたりのものづくりはこれからも続いていく。



entoan  (エントアン)   
 

埼玉県越谷市赤山町4-7-46

TEL : 048-992-9500

※来店時は要予約

http://www.entoan.com

Instagram/ entoan_shoes